2026年6月29日

きれいに回る仕事より、少し無茶な方へ ー 取締役COO就任に際して思うこと

はじめに

この度Morusの取締役に就任しました、室井啓介です。

Morusは、日本が強い研究知見を持つ栄養資源を起点に、エビデンスを積み上げながらグローバル産業をつくろうとしている会社です。足元では、カイコ由来の機能性原料を軸に、研究開発、生産、販売を一気通貫で進めています。日本発の資源で、世界の健康課題や食の課題に向き合うという壮大なテーマに、本気で取り組んでいる会社です。

自分がMorusに入社したのは2025年の3月でした。本当なら、もっと早くに入社エントリーのようなものを書くつもりでしたが、怒涛の日々を過ごす中で遅れに遅れ、気づけば取締役就任の挨拶みたいなタイミングになってしまいました。

ですが、今となってはそれでよかった気もしています。今回の就任は、自分の中では何かを達成した感覚というより、やっとスタートラインに立った感覚の方がずっと強いからです。名実ともに、自分の中にずっとあった問いに、これからちゃんと答えを出していくフェーズに入った。そんな感じがしています。

看板が無くても生きていける?

振り返ると、これまでの自分はかなり素直に、自分の市場価値を高めることを軸にキャリアを積んできました。それ自体が悪いとは思っていません。自然なことだったとも思います。

ただ、どこかのタイミングから、自分でなくてもできるだろうなと思う仕事に、どうしても身が入らなくなっていきました。それでいて高い給料をもらっていることにも、正直ちょっと違和感があった。仮に今の会社が無くなった瞬間、会社の看板なしに、同じバリューと対価を実現する力が自分にあるのだろうか?と。

たぶん自分は、全力を出しても届くかどうかわからないくらいのことの方が、性に合っている。整った場所で、きれいに期待値どおりの成果を返すことよりも、自分がいなかったら少しは違う未来になってしまうかもしれない、そういう場所の方に惹かれる。少し格好つけすぎかもしれませんが、そういう感覚がだんだん強くなっていきました。

Morusが自分ゴトになった瞬間

Morusも、最初から「ここで自分が何かできそうだ」と思えていたわけではありません。むしろ最初はかなり遠く見えていました。代表の佐藤が立ち上げた会社が、ディープテックスタートアップとして研究開発を進めているのを見ていて、門外漢の自分には正直かなり距離があった。自分が入って何かできる世界には見えなかった、というのが本音です。

でも、プロダクトができてきて、いよいよ本格的に売るフェーズに入ってきたあたりから、少し見え方が変わりました。研究を研究のまま終わらせず、ちゃんと事業にしていく。しかも、日本で形にしたものをそのまま持っていくのではなく、海外も含めて、どこでどう勝ち筋をつくるのかをバックキャストで考えていく。そこには、自分なりに貢献できる余地があるかもしれない、という感覚が出てきました。

そこから少しずつ「自分だったらこの事業をどうドライブするだろう」と考えるようになりました。

ツッコミを欲していたFounder CEO

代表の佐藤とは高校時代のクラスメイトです。昔から、本人はいたって真面目で本気なのですが、その真面目さと本気さゆえに、ツッコミどころが満載な人間でした。狙ってボケているわけではまったくないのに、発想も行動も一足飛びで、ついつい茶々を入れたくなる、そんな人間です。

だから自分にとって「佐藤にツッコむ」というのは、昔からわりと自然な役割でした。

Morusに関わり始めたとき、少し驚いたことがあります。彼のそういう“ボケ”が、社内で全然拾われていなかったことです。怖がられていたんでしょうか。あの行動量と熱量を前にすると、そもそもツッコむ余白がなくなるのかもしれません。いずれにしても、自分には少し不思議でした。昔から見ている側としては、そこはちゃんと拾った方がいいだろう、と。

その自覚があったからか、入社時に佐藤から「ツッコミ役」を仰せつかりました。半分冗談だったのかもしれませんが、自分には妙にしっくりきました。たぶんそこには、二つ意味があったんだと思います。ひとつは、昔からの意味でのツッコミ。もうひとつは、事業を前に進めるためのツッコミです。

佐藤の強みは、とにかく回転数の高さにあります。思いつく、動く、会う、試す、また動く。じっとしていることがない。だからこそ、Morusのような、まだ市場も勝ち筋も定まりきっていない事業でも前に進むんだと思います。

一方で、速く進むほど、論点は置き去りになりやすい。前提は本当に正しいのか、その打ち手は誰に届くのか、いまやるべきことと後でやるべきことが混ざっていないか。そういう問いを差し込む役割は、どうしても必要になります。

何をやるかだけじゃなく、何をやらないかを決めること。誰に売るかだけじゃなく、なぜ今そこから攻めるのかを問うこと。そういう意味で、自分の役割は、事業の解像度と実現確率を上げることなんだと思っています。

Morusの面白さは、ゼロイチを、海外からやること

その役割をいちばん強く感じるのが、海外です。Morusの挑戦は、日本でうまくいったものをそのまま外に持っていくということではありません。むしろ逆で、シンガポールをはじめとするASEANで、海外ファーストで事業をつくって、その知見を横展開したり、日本に逆輸入したりするような進め方に、僕らは賭けています。(その詳しい話は、別の機会に綴りたいと思います。)

現地で結果が出始めているのは嬉しいですし、手応えもあります。でも、これまでも、これからも、決して順風満帆ではありません。ゼロから人を探して、チームをつくって、市場を開いて、打ち手を直し続ける仕事はなかなか骨が折れます。わりとフットワーク軽く多くの仕事をこなせる方だと自分では思っていますが、そういう自分を「降ろして」いないとやっていられないくらいには、やることが山積みです。

世の中にまだないものを届ける仕事は、単に新しいプロダクトを売ることではありません。研究、生産、サプライチェーン、規制、伝え方、現地の文脈、採用、組織づくり、その全部がつながっていて、しかも最初から正解があるわけではない。

でも、自分はその難しさが嫌いではありません。むしろ、小さな成功も失敗も、全部ちゃんと道になっている感覚がある。やり方が決まっている仕事には、あまりモチベーションが湧かないので、ちょうどいいんだと思います。

自分の土台にあるもの

そういう感覚の土台には、いくつか原体験があります。ひとつは、幼少期をアメリカで過ごしたことです。マイノリティとして周囲に適応していく感覚、自分の当たり前が当たり前ではない場所で、相手の文脈を読みながら居場所をつくっていく感覚は、かなり早い段階で自分の中に入っていた気がします。

環境に合わせて言葉や振る舞いを変えることに、あまり抵抗がない。違う前提の人たちのあいだに入って、まず観察して、少しずつ合わせていく。今、海外で人を探し、チームをつくり、現地で事業を前に進める中で、その頃に身についた適応力みたいなものが活きている気がします。

もうひとつは、2023年以降ラクロス日本代表のゼネラルマネージャーとしての経験です。世界大会で国家斉唱を聞くたびに、いろんな記憶や感情が込み上げてきました。自分がどこから来たのか、自分は何を背負っているのか、そんなことを考える時間だった気がします。

冒頭のキャリア観の変遷もこれに起因しており、この頃から少しずつ、自分が何を得るかより、何を代表して戦いたいかを考えるようになりました。自分の国を背負ってグローバルで戦いたい、という意識が、実体験を糧に育っていたのだと思います。

COOに就くということ

取締役という責務に加え、COO(Chief Operating Officer)に就くというのは、肩書きが増えたというより、逃げ道がひとつ減った、という感覚です。

佐藤がつくろうとしているものを、ただ「いいですね」と眺めているだけではもう済まない。ツッコミを入れて、論点を整えて、優先順位をつけて、ちゃんと前に進む形にする。そこまで含めて自分の役割です。

ただ、これは自分ひとりで何かを成し遂げる、という話でもありません。むしろ逆で、Morusの優秀なメンバーの尖っていて強い個性をバラバラのままにせず、きちんと会社の成果に結実させるということです。フォロワーシップを発揮しながら、必要なピースをうまくはめていく。その感覚は、たぶん自分がこの仕事でいちばん楽しいところでもあります。

結果への責任はこれまで以上に重くなりますが、自分でなくとも良いと思ってしまう仕事をそれっぽくやるよりは、ずっと健全です。難しい仕事だけれど、自分がいる意味がある。自分にとって、COOに就くというのは、そういう場所で、チームの力をちゃんと勝ちにつなげる役を引き受けることなんだと思っています。

最後に、今の仲間とこれからの仲間へ

Morusは、整った環境で、決まったやり方の業務を上手に回す会社ではありません。日本発で、まだ名前のついていない産業を、世界に通用する形でつくりにいく会社です。

向いているのは、正解のないカオスを前にして、少し面白がれる人。役割の境界線より、事業が前に進むことを優先できる人。自分の専門性に誇りを持ちながら、それをチームの勝ちに使える人。そして何より、大きなビジョンにただ酔うのではなく、それを実現するための泥臭さも引き受けられる人です。

逆に、やり方が決まっている仕事の方が好きな人、日本で磨いた成功法則をそのまま持ち込みたい人には、たぶん簡単な環境ではありません。

でももし、自分でなくてもいい仕事に、少し物足りなさを感じ始めている人がいるなら。
高い目標に、全力を出しても届くかわからないくらいの不確実さに、むしろ少しワクワクしてしまう人がいるなら。
日本発で世界に挑むことに、高揚する人がいるなら。

たぶん、Morusはかなりおもしろい場所だと思います。
僕らはまだスタートラインに立ったばかりです。一緒に最前線で走り始めてくれる仲間を募集しています。


本コラムの背景にある、室井の視点をさらに深掘りしたインタビュー動画をYouTubeにて公開しています。

外からのイメージだけに留まらない「スタートアップで働くリアル」や、Morusへの参画を決意した背景にある戦略的ビジョンについて語っています。ぜひご覧ください。


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